其の後も 壁にしがみつく様にして横ばいに歩く奥さんの姿を見ると、私は、すぐ、駈けよって
、彼女に背と手を貸せた。 そんな時 彼女は,”自分たちが、このように 落ちぶれたのは、皆 ジーノが以前 女遊びに耽ったからだ。”等とも、こぼした。 時々、私の仕事場の前を歩くジーノは年はとってはいたけれど、歩く姿は相変わらず胸を張って、怒り肩を 大きく前後に振って歩く、あの威勢の良い歩き方であった。けれど、脚、腰からはすっかり、活気がぬけていた。 そんな両親を 時々 子達も訪ねて来る様になり、私たちは、本当になん十年ぶりかに再会した。以前に比べ, 皆年とって老けたけれど、娘さん達は相変わらず、昔の面影を保ち美しかった。問題は長男である。昔のトム.クルースは すっかり ビール樽化し、足を引きずる様にぎこちなく歩いている。サッカーどころではない歩き方だ。そんな、ある日のこと、私の仕事場の前に置いていた私の五台目の自転車が無くなった。 十日ほどあちこち探しつつ様子をみた。 見つけたのだ。ところどころ、新しいぺンキは塗ってあるけれど、4、5年も 乗りつずけた自分の自転車には見覚えがある。何回か、倒して傷つけたサドルもそのままだ。 それを 私は ジーノの住みかの前で見つけたのだ。それには、私の物ではない錠までかかっている。ジーノがどのようにして、私の自転車を手に入れたかは知らないが、それに乗っているジーノを見る度に、”足のよろけた、可哀想だが、つまらないジーノ。そんなに欲しけりゃ盗っときんさーい。” っと、私は心の中で呟いたものだ。 やがて、ジーノ夫婦は子達に面倒を看てもるために、私の仕事場の近くの住み家を出て行った。 この辺りでは ジーノのような、つまらない人間に遭う事は、そう、まれな事でもない。
by otrantohiroko
| 2011-09-23 05:56
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